伝統的な吊りかけ式の電車は電動機の重量が車軸に懸かるので、振動が大きく、乗り心地も悪く、線路にも負担がかかりました。これを改良するため、台車に電動機を搭載し、電動機軸と車軸の動きの違いを継手(カップリング)で吸収する方式が考えられるようになりました。ファンの間で、最も知られているものが「カルダンドライブ(駆動)」です。
栃尾電鉄や淡路交通でガソリンカーのエンジンの代わりに電動機を床下に搭載し、自在継手と笠歯車を有する推進軸を流用し、電車化したものが、直角カルダンのはじめと言われることもあるようです。この自在継手はイタリアの数学者が発明したものと言われ、自在継手をカルダン・ジョイントと言われるようになり、これが「カルダンドライブ」の語源のようです。また、ドライブ、駆動というのは、パワーにより何かを動かすということだと思いますが、電動機軸と車軸の動きの差を吸収する継手(カップリング)の方式のことです。電車の場合、台車の限られたスペースに装備せねばならず、複雑は構成になるものもありますので、このように称されるのかも知れませんが!


 


淡路交通 2007  1961-2-26

 ガソリンカー改造の直角カルダン駆動。淡路交通2007です。
この方式は長距離高速電車特急を実現し、新幹線にも繋がります。
カルダンドライブの草創期から見てきたファンのひとりとして、以下にその変遷を辿って見たいと思います。WNドライブを、カルダンドライブの中に入れて見る向きもありますが、開発の技術の流れ、継手の構造は全く違いますので、分けて考えてみたいと思います。

 なお、概念図、説明共技術的には詰めておりませんが、正鵠を得ているとは思います。1ファンのつぶやきと思って頂きたいと思います

カルダンドライブ

 1. 直角カルダン
 台車に車軸に直角に電動機2台を取り付け、カルダン・ジョイントと笠歯車を備えた推進軸で車軸を駆動する方式です。電動機設置スペースが充分取れるので、電動機容量も比較的大きくできたようです。本格的導入は1954年に東急5000形(初代)でした。この青ガエルのニックネームを頂戴したモノコック構造のスマートな電車は走りも静かで、乗り心地も良く、従来の吊りかけ式の電車とは別物のような感じでした。急行として走ったときは、車内にCMも入ったBGMを流しながら走り、満員の車内の雰囲気も和らぎました。今では、顰蹙を買うと思いますが!


多摩川の鉄橋を渡る5000形(初代)5連 急行桜木町行       新丸子~多摩川園前 1962-1

この他にも、小田急、阪神など初期のカルダン車として広く採用されました。しかし、推進軸の折損事故なども発生し、中空軸平行カルダン方式にとって変わられました。

 
垂直カルダンー台車枠に電動機を縦(垂直)に取り付け、自在継手を持ったカルダン軸を介して、笠歯車で、車軸に直角に駆動するもので、直角カルダンの変形と考えられると思います。主に762mmゲージの三重交通、栃尾電鉄に採用されました。 

2.中空軸平行カルダン


中空軸平行カルダン方式概念図  

 電動機を車軸と平行に台車枠に設置した場合、軸方向のスペースがありません。このため、電動機軸を中空にして、電動機反負荷側にたわみ板を設け、中空軸の中にねじり軸を通し、負荷側たわみ板を介し、ギャーに結合しています。
 複雑な構造ですが、電動機容量はある程度大きく出来ます。東急などの大手私鉄はもとより、国鉄も初めてカルダン車モハ90(101系)に採用しました。。


101系山手線内回り電車        大崎~品川          1961-10

 これをベースにビジネス電車特急151系の実現に繋がりました。同じく、中空軸平行カルダン方式を使った小田急SE車、3000形(初代)を借用し、高速試験を行い、その高速性能を確認して、151系を作ったようです。


下り特急「第2こだま」大阪行5M 保土ヶ谷~戸塚 1963年3月

3.TDカルダン



TDカルダン(中実軸平行カルダン方式)概念図

VVVFインバータ駆動の交流電動機は回転数を上げることにより、大幅に小型化出来ます。このため、中空軸のような複雑な構造にせず、負荷側にたわみ板2枚とねじり軸を纏めることが出来るようになりました。
中空軸平行カルダン方式が101系に採用されてから、1,067mmゲージの在来線電車の標準駆動方式として国鉄が扱っていましたので、TDカルダン方式も引き続き、JRや多くの私鉄で採用されてきました。しかし、このことは、WN継手も1,067mmゲージの在来線電車に容易に適用出来るようになりました。、大出力、長時間運転における耐久力が優ると言われWNドライブが1,067mmゲージの電車にも使われるようになりました。一方、TDカルダンドライブは静音性に優ると言われており、N700形のグリーン車に初めて適用されました。

WNドライブ



WNドライブ概念図

外筒の内側に刻まれた歯と内筒の外側に刻まれた歯がギャーと同じく組み合いトルクを伝えると共に、その遊びで、電動機軸と車軸の動きを吸収するギャーカップリングです。
 この方式を本格的に導入したのは、1954年に営団地下鉄丸の内線の部分開業に備えて新製した300形でした。300形は真紅のボディーに銀色のサインカーブの入った白線を巻いたスマートな姿と共に、静かで、乗り心地も銀座線とは雲泥の差で印象に残る電車でした。製作に当たり、米ウエスチングハウス社と技提を結び、1編成分の電気品などを輸入したようです。


営団地下鉄丸の内線 300形   四谷  1959年

 1958年末には東海道本線、東京~大阪間にビジネス電車特急「こだま」号がデビューしましたが、その半年前の1958年7月に近鉄、初代ビスタカー10000系が走りはじめました。まだ、名古屋線は改軌されておらず。大阪上本町~伊勢中川間のみを走りました。これもWNドライブでした。以降のビスタカーのみならず、標準軌の近鉄電車はすべてWNドライブです。


営業初日(1958年7月11日)車内配布の絵葉書ビスタカー10000系

1964年10月1日、新幹線開業です


新幹線試運転列車 大崎付近 1964年7月21日

後に0系とよばれる最初の新幹線電車ですが、以降の新幹線電車はE5系、E/W7系に至るまでN700系のグリーン車など除き、ほとんどがWNドライブです。これは高出力、連続運転に耐久力があることが評価されているためのようです。一方、惰性運転のとき、走行音が高くなることがあるようで、このためN700系グリーン車には初めてTDカルダンドライブが適用されました。

 一方、1,067mmゲージの電車へは、富士急行、長野電鉄、秩父鉄道などにわずかな実績を残しておりますが、設置スペースの関係で、適用電動機容量に限界があり、中空軸平行カルダンに大きく、遅れをとっておりました。
しかし、VVVFインバータ駆動交流電動機の高回転数化によるコンパクト化で、TDカルダンと同じ構成に出来るようになりましたので、その比較により、JR西日本のVVVFインバータ駆動車は標準的にWN駆動を適用するようになったようです。


JR西日本223系電車     大阪駅

また、小田急新5000形もWNドライブになりました。


 小田急新5000形 むーさん撮影

この他、東急2020形などには初めてWNドライブが導入され、1,067㎜ゲージの電車にも、耐久力が評価され、採用されるケースが多くなってきているようです。


(2021-5-30


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