5.電車を動かす電動機(抵抗制御直流電動機からVVVF駆動交流電動機へ)

 5-1 電車駆動電動機と制
御の変遷

  

 上図に電車(電機機関車)を動かす電動機とその制御装置の変遷を示します。
 架線から直流を受ける直流電車には長い間、直流直巻電動機の抵抗制御が用いられて来ました。(2-4-1参照方)。連続加速と回生制動を行うため、サイリスタで、直流電圧を断続させて変えるチョッパー装置で直流電動機の電機子電圧を制御する「電機子チョッパー」が導入されました。しかし、コストが大幅にアップするため、抵抗制御の直流電動機の界磁電流を制御し、回生運転が出来る「界磁チョッパー」がより一般的になりました。「界磁チョッパー」は制御用界磁巻線を別に設け、その界磁電流を制御しましたが、直巻界磁巻線の電流を補助電源に接続した混合サイリスタブリッジにより制御し、回生運転が出来る「界磁添加制御」も適用されました。
 かご形誘導電動機(SCIM)をVVVFで制御することが、架線電圧DC1500Vの電鉄用インバータを1Sで実現できるGTO素子の出現で、一般的になりました。GTO素子はスイッチング特性が悪く、異音を発生しましたが、電車の交流電動機駆動の実用化に大きく、寄与しました。やがて、はるかにスイッチング特性が優れたIGBT素子の出現により、殆どの電車にIGBTインバータによるSCIM駆動が採用されるようになりました。SCIMより、トルク効率が優れ、よりコンパクトになる埋め込み型永久磁石同期電動機(PMSM)の適用する電車も現れましたが、SCIMでは4台ないし8台の電動機を1台のインバータで駆動できますが、他励電動機であるPMSMは電動機毎にインバータで制御する必要がありますので、どうしても、コストアップになります。
 交流電化された区間を走る電車(電機機関車)も架線からの単相交流を整流し、直流電動機を制御しておりました。東海道新幹線を例にとりますと、0系ではシリコン整流器の交流側のトランスのタップを切替えで直流電動機の電機子電圧を変えておりました。100系ではサイリスタブリッジで、整流した直流電圧の大きさを変えておりました。300系はGTOインバータによるSCIM、700系、N700系はIGBTインバータによるSCIMで駆動されております。SCIM採用により、電動機は高速化し、コンパクトになり、出力アップすることにより、最高速度300km/hが実現しました。IGBTインバータはスイッチング特性が良いので、高性能制御「ベクトル制御」が適用出来、粘着鉄道の大きな問題点であった車輪の空転、滑走の低減にも効果があるようです。今後、IGBT素子の課題である順方向ドロップの低減などの為、SiC(シリコン・カーバイト)素子化することも実現に近づいているようで、今後共、IGBTインバータは使い続けられるものと考えられます。

 5-2 電車への交流電動機の適用効果
 
 VVVF駆動交流電動機の電車への適用効果は極めて大きいと言えます。以下に主なものを挙げます。

(1)省保守
    直流電動機のコミュテータ(整流子)、抵抗制御器のメンテナンスからの解放。エアーブレーキシューの摩耗減少による
    保守頻度の低減などが考えられる。

(2)消費電力の削減
    始動抵抗器の損失無し
    電動機効率アップ
    回生制動による回生電力ー消費電力削減に最も大きく寄与。
    この結果
     
京王電鉄ー全営業用電車のVVVF化が完了し、消費電力45%削減
    
 課題ー交流電源系統への回生電流の還流  
(3)粘着力の改善ー空転、滑走の防止
    始動、加速時ーレールと車輪の間の粘着状態により、車輪が空転。
    減速、停止時ーレールと車輪の間の粘着状態により、エアーブレーキのシュー(制輪子)が車輪をロックし、レール上を滑走
     →車輪にフラットが生じる。→車両を振動させる。→騒音の増大→車輪の研削要
   
 インバータによる連続加減速。ベクトル制御により、瞬時必要トルクを検出し、加減速度を調整。
    →空転、滑走の防止

(4)交流電動機の高速化、小型化による出力アップ
    電動機の体積D2L (D;ロータ外径、L;鉄心長)  

 
       電動機の大きさ(体積)は出力Pではなく、トルクTに比例。
      たとえば、100kW-1500min-1の電動機は200kW-3000min-1の電動機とほぼ同じ大きさ。
      電動機駆動軸と電車の車軸の間の減速ギャー比を2倍にして、電動機回転数を2倍にすれば、
      2倍の出力の電動機を同じスペースに装荷出来ることになる。 →車輪軸のトルクも2倍になる。
      直流電動機はコミュテータの存在のため、回転速度に制限有。
      
交流電動機は回転数をより高く出来る

                     表5.1 新幹線100系とN700系の比較

 N700系はギャー比を大きくするなどで、電動機回転数を上げ、電動機の出力アップをして、運転速度をアップを可能とした。

               表5.2 ジーメンス「VelaroE」スペイン、マドリッド~ バルセロナ高速新線用電車


 この電車のベースになっているドイツ国鉄DBのICE3はVVVFによるかご形誘導電動機の適用により、
 電動機容量を大幅にアップ
    電動機容量550KW 電動車1台の出力2,200Wを実現。
    →動力集中方式であった欧州の高速列車車両の中で、座席効率の良い動力分散方式を実現。

(5) 高速交流電動機→コンパクト化→駆動装置の簡素化

  車軸と電動機軸の動きを吸収する継手
   標準軌(1,435mmゲージ)→電動機軸とギャー間にWN継手(ギャーカップリング)を挿入
   狭軌(1,067mmゲージ)→WN継手を設けるスペースなし
                  電動機軸を中空にして、電動機反負荷側にたわみ板を設け、中空軸の中にねじり軸
                  を通し、負荷側たわみ板を介し、ギャーに結合
                  (中空軸並行カルダン)

                      →コンパクトな交流電動機の適用→電動機軸、ギャー間にたわみ板を2枚設けた
                    TD継手を挿入                  (中実軸(TD)カルダン) 


 
                    図5.1 中空軸並行カルダンと中実軸(TD)カルダン

              表5.3 1、067mmゲージ電車 東武アーバンパークライン8000系と60000系の比較
    

 1,067mmゲージ電車の例として、東武アーバンパークラインの1963年から製作された8000系と最近製作
された60000系の比較をした。その効果を以下に示す。

 (a) 60000系は8000系に比べ、40%の消費電力低減
    60000系は減速時、制御車、付随車もエアーブレーキをかけずに電動車の回生運転のみで、制動をする。

 (b) 電動車の重量を大幅に低減
    (8000系)39トン→(60000系)33.1トン 約15%の軽量化
    アルミ合金車体と電動機の小型化、駆動装置の簡易化も軽量化に寄与
      軸重の軽減→軌条の負荷低減→乗り心地の改善

 (c) 空転、滑走の防止→車輪フラットの防止
    60000系はインバータによる連続加減速。ベクトル制御により空転、滑走を検知。加減速度を調整して空転、滑走を防止

 (d) 低騒音
    60000系は全閉形かご形誘導電動機の採用。車輪のフラットによる騒音も少なく、走行音が大幅に低減


本項参考資料
   野元 浩著「電車基礎講座」(交通新聞社)
本項参考ウェブサイト
  ヴィキペディア「新幹線100系電車」「新幹線N700系電車」「東武8000系電車」「東武60000系電車」「中空軸並行カルダン駆動方式」「TD並行カルダン方式」 

                                                                                                    (2014-12-28)

                         
                             に戻る