電車の常用制動としては、エアーブレーキが使われてきました。4輪単車などではハンドブレーキのみのものもありました。これらは車輪にブレーキシューを押し当て、摩擦力により、制動力を得るもので、車輪の踏面が濡れたりして、摩擦力が充分得られず、ブレーキの効きが悪くなることがありました。このため、電動機を架線から切り離し、抵抗に接続し、発電機として作動させ、発電電力を抵抗で、消費させ、制動力を得る発電制動が非常制動として殆どの電車についていました。連続勾配は続く路線では常用として使用することがあり、この場合、抑速ブレーキと言われているようです。箱根登山鉄道などの登山鉄道が装備しています。
 高速電車では近鉄のモ2200が青山越えの33‰の急勾配を降りるときにこの抑速ブレーキを使用していました。 


モ2200形 2231  名張    1960-4-28

 発電制動は電車に貯めたエネルギーを電動機を発電機として動作させ発電した電力を抵抗で消費していますが、直流電動機の界磁を制御することにより、発電機として作動させ、発電した電力を架線に返すのが回生制動です、古くは信越本線碓井峠のアプト式電気機関車ED42に装備していたようです
 電車では東急7000形(初代)に導入されました。


アプト式ED42電気機関車 熊ノ平~横川  1962年


東急7000形(初代) 7018 自由が丘~田園調布 1962ー1

 以上は直流電動機駆動の電車のお話ですが、VVVFインバータ+交流電動機駆動では回生制動が容易で、ベクトル制御かご形誘導電動機、永久磁石同期電動機駆動の場合は静止状態からトップ速度まで、回生制動が出来ます。このように全速度範囲で回生制動が効く状態を「純電気ブレーキ」と称しているようです。
 しかし、回生制動の泣き所は、回生した電力が多すぎると、架線電圧が上昇し、その許容値を越えると回生失効という状態になり、急遽、エアーブレーキで制動をかけざるを得ないことになります。
 下図に示す、
回生電流は架線に流れ込みますが、通常の電鉄変電所はシリコン整流器で、3相交流を直流に変換しており、直流側で発電された電力は交流側には行きません。このため、回生電流は他の力行運転をしている電車に流れ込み、力行運転に必要な電力の一部になります。運転頻度の少ない路線では不利になります。また、変電所、架線、フィーダ線を含めた回路抵抗はほぼ変電所の大きさ、容量に反比例すると考えられますので、変電所容量の小さな路線では、電圧上昇も大きくなります。依って、規模の小さいローカル線では、回生制動が適用しにくかったようです。

この解決策として、余分な電力を抵抗で消費させ、架線電圧上昇を抑える方法、発電ブレーキの併用が考えられました。


VVVFインバータの直流側にブレーキ抵抗を設け、架線電圧が許容値を越えると、IGBTチョッパーでこの抵抗に流れる電流(発電ブレーキ電流)を調整します。最近のモジュールユニットインバータでは、インバータユニットのマイナーチェンジでIGBTチョッパを実現出来るので、インバータと一体化しており、抵抗以外のものは必要なく、容易に装備出来るようです。
 


E219系 水上  2020-10-8  

 JR東日本の新潟地区向けE219系はローカル線区への乗り入れが考えられますので、この装置が装備されています。特急あずさの新型車両E353系にも大糸線に乗入れることもあるので、導入されております。北鉄の03系などにも採用されているようです。

(2021-4-30)


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