長い間、架線から直流を受けて走っている電車は直流電動機を抵抗制御で、始動、加速しておりました。カム軸を手で廻し、抵抗の段数を切り替える直接制御(ダイレクト コントローラ)から、マスコンからの信号で、制御器のパイロットモータでカム軸を動かし、抵抗を切り替える間接制御になり、複数の制御器を一つのマスコンで動かす総括制御、始動電流を検出し、それが減衰すると抵抗の段数を少なくする自動加速などもありましたが、基本的な動作は変わりませんでした。制動はもっぱらエアーブレーキなど機械的なものでした。
このくびきから脱するために、電機子チョッパーで直流電動機の電圧を連続的に制御する方式が現れました。しかし、高価であったので、より安価な直流電動機の界磁を制御し、回生制動ができる界磁チョッパーもしくは界磁添加方式などが主流になった時期もありました。
最新の電車はベクトル制御IGBTインバータでかご形誘導電動機を駆動したものがほとんどですので、これをベースに考えましょう!
ベクトル制御が大きな役割を果たしていますが、これはがご形誘導電動機の回転速度を素早く制御し、目標の速度に保つ制御です。
直流電動機には電車以外に製鉄所の圧延機や製紙工場の抄紙機のように回転速度を変え、回転速度を精密に保つ必要のある用途があります。
サイリスタにより直流電圧を速く変え、直流電動機の速度制御を行いましたが、整流子の存在で、そんなに速く電流を変えることは出来ず、限界になりました。 このため、かご形誘導電動機を使い、この限界を突破しようとして、登場したのがベクトル制御です。
電車は速度を正確に一定に保つ必要はありませんので、電車に使われるとは夢にも思いませんでした。マイクロチップコンピュータを中心とした高集積回路のディジタル回路はベクトル制御もコストアップなく、インストールできます。このため、電車のインバータだけでなく、あらゆるインバータにベクトル制御が適用されるようになったようです。
いわば、たなぼた的に電車のインバータに導入されましたが、意外な効果があったようです。
ベクトル制御はかご形誘導電動機を直流電動機のように回転速度、負荷電流を素早く制御しようとするもので、基本的には電動機の回転速度を所定の値に保つ制御です。
誘導電動機の理論は難解です。
実は電気の元祖的な存在のエジソンは交流を理解できなかったようで、直流に固執して、送配電で、ウエスチングハウスのクロアチア人の天才、テスラの推す交流に負けました。エジソンは高等数学が苦手で、交流が理解できなかったようです。もちろん、誘導電動機も分からなかったと思われます。 とすると、エジソンも理解できなかったかご形誘導電動機を我々が分からないのは当然?と思いませんか?
依って、エジソンも理解できなかったかご形誘導電動機の制御の詳細はさておき、電動機の速い速度制御。それは、素早く、適切はトルクを電動機が出すように制御するものです。 ここに、焦点を絞って、ご覧頂きたく思います。
以下に昔の電車(抵抗制御直流電動機)と今の電車(ベクトル制御VVVF駆動かご形誘導電動機)について、「主回路と動作」、「運転パターンと加減速」、「特徴(長所、短所)」を簡単に表にまとめました。
(表中の電車の形式、写真は一例)
直流電動機 電機子チョッパー制御 |
![]() |
国鉄/JR 201系 営団/東京メトロ 6000/7000系 |
サイリスタチョッパーで、直流電動機の電機子電圧を断続して、平均電圧を変える。回生制動も広い速度範囲で可能。しかし、高価なので、界磁を制御して、回生制動が出来るものが主流になる。 |
直流電動機 抵抗制御+ 界磁チョッパー制御 |
![]() |
東急 8500系 |
直流電動機を抵抗制御で加速。他励巻線を電動機に設け、この励磁電流をチョッパーで変え、回生制動を行う。 |
直流電動機 抵抗制御+ 界磁添加制御 |
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JR 211系 |
直流電動機抵抗制御で加速し、直巻界磁巻線の電圧、電流を補助電源よりの3相交流を混合サイリスタブリッジで整流、制御した、電圧、電流を加えることにより、界磁弱め、回生制動を行う。 |
かご形誘導電動機 V/f一定 オープンループ VVVFインバータ駆動 |
![]() 撮影 むーさん |
東急 9000系 |
架線電圧DC1500Vに対応出来るGTOサイリスタの の開発により、VVVFインバータの電車への本格的適用が始まった。可変電圧可変周波数電源でかご形誘導電動機の回転数をかえるもので、回生制動は出来るが、低速域では効かなかった。GTOサイリスタはスイッチング特性が悪く、IGBTに置き換えられた。 |
(注1)ベクトル制御
下図はいわゆるベクトル制御の概念図です。
ベクトル制御概念図
通常、ベクトル制御と言われているのは、かご形誘導電動機の回転速度を設定速度に保つ制御です。電動機回転速度の自動制御です。設定速度と速度センサーで検出した電動機の実際の速度を突き合わせ、その差は設定速度に電動機速度を合わせるために必要な加速もしくは減速トルクを発生させるに必要な負荷(もしくは回生)電流です。直流電動機では負荷(もしくは回生)電流は電機子電流そのものですが、かご形誘導電動機の場合はこの概念図に赤で示されたベクトル制御が必要になります。これはかご形誘導電動機を使って、直流電動機と同じく、負荷電流に合わせて電動機トルクを素早く発生させる制御です。回転速度を所定値に保つだけでなく、電車がレールを蹴って走る力になる電動機トルクを素早く発生させるものです。
電車に適用した場合の挙動と効果を以下に挙げます。
(1)加速/減速時の粘着力の維持。0速度からトップ速度まで、全速度範囲で、所定の加速/減速度に合ったトルクを発生し、連続的に加減速を行います。直流電動機の抵抗制御のように回転速度がステップ的に変わらないので、粘着力を常に確保でき,無駄時間なく、加減速が出来ます。
ます。
(2)加減速時、何らかののことで、粘着力が少なくなり、車輪の空転が生じたとき、即、検出し、加速、減速を見合わせ、車輪のフラット発生を防ぐことができます。
(3)0速度まで、回生運転を行い、静止状態でエアーブレーキを作動させ、車輪をロックします。→いわゆる純電気ブレーキの実現
(注2)、電動機の体積は容量kWでなく、トルク(回転力)により決まりますが、交流電動機は回転数を上げること出来ますので、大幅な電動機の小型化が実現出来ます。ギャー比を大きくすることにより、電車の駆動力は変わりません。これにより、駆動軸の大幅な簡素化が出来ます。
(注3)1台のVVVFインバータで複数の かご形誘導電動機を駆動出来ますが、ベクトル制御は1台のかご形誘導電動機と見做し制御します。
MT(MMT) or 0,5M
複数台のかご形誘導電動機を1台のベクトル制御VVVFインバータで駆動する場合、一つの電動機と見做します。MMT+MT編成で1C8M(1つのインバータで8台の電動機を制御)と1C4M(一つのインバータで4台の電動機を制御)を適用する電車と、1つの車体に電動台車と付随台車を履かせ、電動台車には2台のかご形誘導電動機を装荷し、1C2Mのベクトル制御VVVFインバータで制御する0.5M方式があります。
MT(MMT) 小田急新5000形 むーさん撮影 0,5M JR西日本 227系(225系傍系 広島地区配備)
0,5M方式は同じ台車に装荷された2台のかご形誘導電動機を1台のベクトル制御VVVFインバータで制御しますので、2台は完全にリジットで結合されていると考えられ、理想的とも言えます。しかし、首都圏の長編成の永久連結の電車は棒連結器で結合されており、あそびがないので、8台の電動機が負荷バランスが取れており、挙動が同じとして、1台のベクトル制御VVVFインバータで駆動しているようで、経済性も考慮すると主流とも言えると思います。0,5M方式は短編成の併合、解結を行う電車に採用されているようです。また、空転、滑走が起こりやすい新潟地区配備のJR東日本E119系にも使われているようです。
1.粘着力を最大限に発揮。
2.消費電力を大幅に削減ー全車両VVVFインバータ適用の京王電鉄の場合45%の削減
←全速度範囲で回生制動
3. メンテナンスコストの削減 ←直流電動機の整流子の保守が不要
←かご形誘導電動機はほぼメンテナンスフリー
←ブレーキシュ―交換の頻度大幅に減少←純電気ブレーキ
←電磁接触器、リレーなどの接点のメンテ不要
←車輪の滑走などで、生じる車輪のフラットが生じない。
4.静音化←全閉モータ
5.信頼性の向上→故障頻度の減少←全ディジタル制御
(2021-5-30)