はーさんは50年来の鉄道ファンで、電気エンジニアOBです。昭和33年(1958年)から大学の鉄道研究部で活動をはじめ、日本全国の鉄道を訪れました。しかし、お仕事は鉄道ではなく、電気メーカーで製鉄所の電気システムのエンジニアリングに携わってまいりました。入社の時、電鉄を希望しましたが、技師長から電車より、もっと面白いものをやらせてやると言われ、従った結果でした。確かに、製鉄所には1万KWを越える大きなものから、0,4kWの小さなものまで、おおよそ、7万台のモータが廻っており、その使い方も多様です。昭和50年(1975年)頃より、速度を精密に制御せねばならないところに使われていた直流電動機をそのメンテナンスの煩雑さから逃れるため、交流電動機で速度を制御出来る装置の開発、実用化の推進をしてまいりました。所謂、VVVFインバータによる交流電動機駆動です。この技術が電車にも使われるようになりました。好きな電車の技術をこの経験から考えるようになりました
 鉄道ファンの間でも話題になっている鉄道の技術用語を口にすることも多いのですが、その内容についてはあまりファミリーではありません。しかし、もう少し、知りたいと思われる方々も多いと思われます。しかし、気楽に読めるものはほとんどありません。
はーさんもというサイトを作りましたが、ちょっと近づきにくいようです。そこで、はーさんは鉄道ファンの仲間と気楽に鉄道の技術の雑談を始めたいと思います。
 
先ず、現在に続く鉄道の歴史を少し振り返ってみたいと思います。
 昭和30年年代(1955年~)は、戦後の混乱も収まり、鉄道も蒸気機関車が客車を牽く列車から、電車に変わりつつありました。
長距離を高速で、乗り心地の良い電車が出現し、特急列車として走りはじめました。昭和33年(1958年)7月には近鉄初代ビスタカー、それを追うように国鉄電車ビジネス特急「こだま」が運転を始めました。これらには従来の吊り掛け駆動に代り、一般的にカルダンドライブと称した駆動方式が採用されました


近鉄初代ビスタカー(営業初日車内配布絵葉書)


国鉄電車特急「こだま」   横浜~大船     1963-3

 しかし、電車による長距離高速運転がこれらが最初ではありません。参宮急行電鉄(近鉄の前身の一つ)が大阪上本町~宇治山田間137kmを最高速度110km、2時間で走破する急行電車を昭和5年(1930年)から走らせました。吊り掛け駆動ではありましたが、昭和初期に高速長距離電車の礎は築かれていたと考えられます。 


       近鉄 モ2200形 宇治山田行急行 大和八木ー耳成 1959-7

 近鉄が昭和33年(1958年)に国鉄電車特急より、半年早く、ビスタカーを走らせたのはこのプライドと技術の蓄積があったからでしょう。
しかし、
吊り掛け駆動は騒音、振動が多く、より高速で走らせるのは難しかったと思われます。カルダンドライブは初め、近鉄、東急などの私鉄で通勤電車への適用から始まりましたが、静かで、乗り心地の良さが注目されました。国鉄も小田急のロマンスカーSE車を借りて、高速走行の試験を始めました。これがビジネス電車特急「こだま」から新幹線に繋がったとも言えます。
 話を戻しますが、参宮急行電鉄はスイスの私鉄BLSに範を取り作られたとのことです。スイスの首都ベルンからベルナーアルプスを越えブリーグに達する標準軌の鉄道ですが、33‰の急こう配のほぼ直線の路線を強力な電気機関車で高速で走破しております。参宮急行電鉄は電気機関車でなく、強力な電車にしております。これが、我が国の鉄道が
動力分散方式になった元祖と言えましょう。ヨーロッパでは、動力集中式が主流であるのと対比されております。 昭和39年(1964年)10月に東海道新幹線が開業し鉄道の新時代を迎えました。新幹線を実現した今一つの技術要素として、交流電化が挙げられます。
 我が国の電気鉄道は架線電圧DC600V、DC750V、DC1500Vの直流電化でしたが輸送密度の低い線区の電化に高圧単相交流を架線電圧とすることにより、変電所の数を大幅に少なく出来る交流電化の導入を進め、昭和34年(1959年)に東北本線、黒磯~白河間が架線電圧20kV-50Hzで初めて交流電化されました。


黒磯駅に到着のED711に牽引された旅客列車          1959-10

 新幹線の電車は高速で走るため、電動機の総容量が大きく、これを供給するには、高圧交流にする必要がありました。
 電車を動かすのには、直流電動機が走り始めた明治時代から、つい最近まで使われて来ました。そして抵抗制御で、始動、加速しておりました。架線から一定電圧を受ける直流電化では、この方式しかなかったようです。パワーエレクトロニクスの進歩により、大容量のサイリスタ素子が開発されましたが、交流を整流しながら、直流電圧を変えることが得意でしたので、新幹線100系などには使われましたが、直流電化の電車には使いにくかったようです。ようやく、東京地下鉄千代田線6000形に直流電圧を断続し、平均電圧を変えるチョッパー装置が適用されましたが、高価になるため、界磁電流を変える界磁チョッパ方式で、回生制動が効くようにしたものが現れましたが、抵抗制御は依然使われ続けました。
 VVVFインバータによる交流電動機の制御は電車に革新的な変革をもたらしました。

初めにサイリスタを使ったインバータが実用化され、ポンプ、ブロワなどの省電力を目的とした回転数制御に多く用いられました。やがて、直流電動機の精密速度制御に匹敵するインバータも現れ、製鉄所の圧延補機、抄紙機などにも用いられるようになりました。VVVFとは可変電圧、可変周波数という意味で、交流電動機を制御するときは周波数と同時に電圧も変えねばなりません。インバータというのは直流を交流に変換する変換器を意味し、初めに開発されたインバータは直流を3相交流に変換するだけで、その前に電源の交流を直流に変換するコンバータを設け、これで、直流電圧を変えておりました。この方式では架線から一定電圧の直流を受ける電車には使えません。これを解決したのは、インバータで電圧も変えることが出来るPWM(パルス幅制御)とそれを可能にしたパワー素子の開発でした。電車に使える容量とDC1500Vに対応出来る素子としてGTO(Gate Turn-Off thiristor)が現れ、昭和59年(1984年)頃より、試験的に搭載し、営業運転をするものも現れました。


GTOインバータ試験にも使われた東急6000形(初代)    多摩川園前~新丸子      1959-10

DC1500V架線電圧に使用できる素子も開発され、GTOを適用しPWMで電圧も変えることが出来るインバータは、広く使われるようになりました。しかし、GTOはオン、オフするのが遅いため、損失が大きく、異音も発生しました。これを解決したのがIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistorー絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタ)です。これはオーディオアンプに使われていたトランジスタのペースに同じくオーディオアンプの一段目、検波に使われていた電界効果トランジスタ(FET)を接続したもので、電圧をオンオフする素子(スイッチング素子)として使った場合、非常に早くオンオフが出来ます。PWMを行うインバータに使った場合、損失を少なくし、騒音が大幅に少なく出来ました。現在では、新しく作られる電車のほとんどにIGBTインバータが使われており、GTOインバータを搭載していた電車をIGBTインバータに置き換えるケースも多く見受けられます。電車を動かす交流電動機には殆ど、かご形誘導電動機が使われて来ましたが、より効率が良く、コンパクトな永久磁石同期電動機(PMSM)も使われるようになりました。交流電動機の制御には、電圧と周波数を一定の比率で変えるV/f一定制御が採用されましたが、より精密に制御出来るベクトル制御も採用されることが多くなりました。交流電動機の適用は、直流電動機のメンテナンスを省く、省保守が目的でしたが、高速回転が出来るので、電動機の小型化、駆動軸の簡素化、出力アップが可能になりました。新幹線の高速化は交流電動機の適用が大きく寄与したと思われます。また、ベクトル制御により、回生運転の範囲が大幅に拡大し、ほぼ停止近くまで、回生ブレーキが効くようになり、純電気ブレーキがほぼ実現に近くなっているようです。と言ってもエアーブレーキは停止時のロックと回生失効に備えるため、必要なようです。
 交流電動機適用の効果は、電車、言い直せば動力分散方式に有利で、ヨーロッパでも電車が高速鉄道、在来線電車でも増加しているようです。しかし、コスト的には電気機関車が客車を牽引する動力集中式が有利なため、この方式にこだわっている鉄道もあります。プッシュプル・トレインは末端の客車に制御室を設け、他端の電気機関車を制御する方式で、列車折り返しの時、電気機関車の付け替えを省いております。しかし、制御車が先頭で運転しているとき、踏切り事故を起こすと、大規模な転覆事故を起こす可能性があります。アメリカで大規模な転覆事故を起こしておりますが、ヨーロッパではまだ起きていないようです。ヨーロッパの幹線鉄道には踏切りが少ないのかも知れません。


OBB Class1216電気機関車 スロベニア リュブリャナ          2011-10

 日本に居ると動力分散方式が絶対優れており、世界の鉄道を電車が席巻しているように思いがちですが、必ずしもそうとも言えません。フランスの高速列車TGVは両端に動力車を持つ動力集中方式にこだわっております。これは電車に比べ、踏切り事故などでの安全性が高いのも大きな理由と思われます。オーストリア国鉄OBBも動力集中方式に特化しており、Class1216’Taurus’という最高速度230km/h、出力6,400kW という高速最強の電気機関車をたくさん持っており、オーストリア国内ではこれが牽引した特急列車が230km/hで走っております。ヨーロッパの複数の架線電圧に対応せねばならない特殊条件があると思いますが、動力集中方式の列車の静粛性、乗り心地は動力分散式列車に比べ、格段に良いことも事実です。日本で、動力分散式が発達したのは、路盤が弱く、狭軌であるのと、輸送密度が格段に大きく、加減速度を高くする必要が新幹線と言えどもあるからだと思われます。新幹線は標準軌で路盤も強いと思われますが、5分ヘッドで走る高速鉄道は日本にしかありません。ドイツ鉄道DBのICE3が電車方式になった大きな理由は編成あたりの座席数を多く出来るからとのことです
 以上、はーさんが見た近年の鉄道の発展と主な技術でした。改めて、以下に列記します。


これから、鉄道ファンがよく口にする技術についてお話することとしましょう!

 直流電動機と抵抗制御
 -今では、新しく作られる電車には使われていませんがつい最近まで直流電動機がもっぱら使われて来ました。そして、直列に抵 抗,器がたくさん繋がれており、それを徐々に抜いていくことで、速度を上げて行きました。いわゆる抵抗制御です。運転士が操作するコントローラのカムスイッチで直接主回路の抵抗の切り替えを行う直接制御とコントローラからの信号で電磁弁やパイロットモータでカムスイッチを動作させ、抵抗を切り替える間接制御がありました。また、間接制御にはタイマーで切り替えたり、電動機の電流を検出し、自動加速するものもありました。しかし、ここではそれらを論ずるつもりはありません。何故、電動機に直列のつないだ抵抗を切り替えることで、加速出来るのか?を考え、一緒に電動機とは何か?をお話してみたいと思います。
                            
  
直流と交流
 -電気には直流と交流があります。直流は電池に豆電球をつないだ場合のように電流は電池から豆電球に向って流れます。 これは非常に分かりやすく、中学校の理科で習い、お馴染みですね。しかし、家庭に供給される電気は交流で、家電製品、照明は すべて交流を使っています。直流を使用しているのは、懐中電灯など電池を使っているものが身近にあるもので、ある程度パワー を必要するものは交流を使っています。交流は電圧も電流も時間でサイクリックに変わります。交流はディーゼルエンジン、水車、火力タービンなどで廻されている発電機でもたらされます。依って、1回転、360°を1サイクルとして変化する電圧が発生し、同じ変化をする電流が流れます。そしてサインカーブで変化します。この交流で電動機を廻すとき、電動機のすべての位置(角度)で同じ、回転力を発生させようとしたとき、1つのサインカーブでは出来ません。相互に120°ずれた3つのサインカーブが必要です。これが3相交流です。依って、発電機では3相交流を出し、家庭用は単相交流とし、電動機を廻す動力電源としては、3相交流を配電します。                    交流はトランスで電圧を変えることが出来ますので、電力を大量に使う都市部から遠く離れたところに発電所を作り、極めて高い電圧(特別高圧)にトランスで変えて送電線で長距離を都市部まで送り、再び、トランスで使い易い電圧に落として、工場や家庭に給電する電力ネットワークを構成できます。このため、身近な電気はほとんどが交流です。しかし、電流が電圧とずれることがあり、電圧と電流がラップしたタイムミングしか、有効な電力として働きません。このような欠点もありますが、大量の電気を扱うのには交流しかありません。  電車は元々は直流電動機が使われていましたので、架線電圧は直流でした。我が国ではDC1500Vが最も高く、これ以上の高い電圧にして、架線電流を少なくして、変電所の数を減らすために架線電圧を単相交流にしたのが、交流電化です。

交流電動機
 
電動機は回転体の表面にある導体(銅バーやコイル)から回転力が発生するため、これを横切っている磁束の方向と導体に流れる電流の方向が、常に一定方向の回転力を得るために導体の掛る電圧を角度により、切り替えねばなりません。このため、電動機を廻すのは交流です。直流電動機も内部は交流です。直流を内部の交流に変える整流子というものがあります。これは機械的インバータとも言えます
 交流電動機は同期電動機と誘導電動機に大きく分けられます。同期電動機は電磁石もしくは永久磁石で発生した磁束とこれを横切り回転力が発生するコイルがあります。直流電動機もこの部類です。誘導電動機にはかご形と巻線形があります。かご形誘導電動機は、最も多く使われている電動機で堅牢な構造で、3相動力電源に接続しただけで廻せますので、使い易く、安価ですので産業用電動機のほとんどを占めているようです。しかし、その動作原理はやや複雑です。

VVVFインバータ
 VVVFとはVariable Voltage Variable Frequnecyの略で可変電圧可変周波数(電源)という意味で、インバータは直流を交流に変換する変換器 のことです。本来は別の技術用語ですが、電鉄関係ではこのような使い方も多いようです。PWM(後記)で電圧も変えることが出来るインバータを称しているようです。

PWM(パルス幅制御)
 
インバータの出力電圧をパルスに切り刻み、その幅を変えることにより電圧を変えるようにした制御方式です。半サイクルの中央のパルス幅を太くして、端のパルスを細くして平均電圧をサインカーブにしております。PWM-Pulse Width Modulation

VVVFインバータの制御                                                              
初めは電圧と周波数を一定の比率で変える「V/f一定制御」が使われ、最近では「ベクトル制御」も使われるようになりました。電車は電動機からの回転力(トルク)で加速するだけですので、正確な速度を制御する必要はないのですが、「ベクトル制御」により、0速度迄制御出来るので、停止時まで、回生制動を利かせることが出来るので、エアーブレーキを常用ブレーキとして使わない純電気ブレーキが実現すると思われます。また、瞬時の負荷トルクの変化が得られますので、車輪の空転、滑走の検知とその抑制が期待されるようです。

吊り掛け方式とカルダンドライブ
                                                              電動機の軸と電車の車軸では左右、前後の動きが異なりますので、それを吸収する継手(カップリング)が必要になります。しかし、台車の狭いところに電動機を装荷せねばなりませんので、継手を設けるスペースが取れません。釣り掛け式は電動機のフレームを車軸に乗せ(吊り掛け)て、電動機の動きを車軸と同じくして、平歯車のみで、電動機のトルクを車軸に伝えるようにしたものです。しかし、電動機の重量が車軸にかかりますので、振動が大きく、ギャー音など、走行音も大きく、乗り心地が悪いものでした。これを解決するため、いろいろな種類のねじり継手やギャーカップリングを挿入する方式が開発されました。狭軌の場合、特に軸方向に継手を入れるスペースがなく、電動機軸を中空にして、電動機の反負荷側にたわみ板を設ける中空軸並行カルダン方式なるものが出現し、かなり使われましたので他の方式も含めてカルダンドライブもしくはカルダン駆動と言われるようになりました。

(2017-12-30)


(トップページ)

          (本館)

          (別館)