近鉄に初めてのビスターカーが走ったのは1958年(昭和33年)7月のことでした。今から46年前のことでした。その年の11月には国鉄のビジネス電車特急 「こだま」が東京ー大阪間で運転を開始する予定でした。カルダンドライブ*の採用で、高速、静か、なおかつ、空気ばねの採用により、乗り心地が格段によくなった電車を長距離特急列車に用いた初めてのケースでした。国鉄に先駆けて、近鉄がビスタカーを走らせたのは、カルダンドライブ*の電車を東急と競って最初に採用、実用化したトップ私鉄の意地であったような気がします。

 7月11日の営業運転初日の列車に乗るため、大学の鉄研の仲間とともに10日夜、東京駅から夜行列車に乗りました。ビスターカーに乗るとともに、関西の電車の探訪も目的でした。関西は東京の鉄道ファンにとってはすばらしい電車を見ることの出来る憧れの地であったのです。(*WN駆動も含めて、ファンの通称カルダンドライブとしました。)

 高速で疾駆する電車ともに、路面電車も健在でした。この旅で東京のファンが目にした関西の電車たちをビスタカーとともに少しご覧頂きたいと思います。

 

名古屋ー市電、地下鉄、名鉄

 

 名古屋駅に降り立つと軽快な名古屋市電が走っていました。

 

名古屋市電 2000形 2022 名古屋駅前  昭33-7-11

 

名古屋市電 連接車 2700形 2711 名古屋駅前  昭33-7-11

 

名古屋市電 1800形 1828 名古屋駅前 昭33-7-11       名古屋市電 900形 906 名古屋駅前     昭33-7-11  

 

 名古屋市電には連接車もありました。新しい車は軽快でスマートな感じでした。1800形の外付けのドラムブレーキは車輪が宙に浮いて回っているように感じられ、愉快でした。

 

名古屋地下鉄、東山線 100形 110 名古屋 昭33-7-11            名鉄 5200形 須ヶ口     昭33-7-11

 

 名古屋で初めての地下鉄東山線は開業したばかりでした。黄色のかわいい100形2連で運転されていました。

 名鉄では初めてのカルダンドライブ車5000系に続く、空気ばね付き台車をはいた新車5200系は試運転の最中でした。冷房は付いていませんでしたが、オール転換クロスの一般車で、関東では考えられないハイレベルな車でした。

 


 

 

近鉄、ビスタカー、10000系

 

 

近鉄ビスタカー10000系 営業初日車内配布の絵葉書

 

 近鉄10000系ビスタカーは7両編成で、中間の3両の付随連接車、それの前後の2両がビスタードームカーになっていました。後の多くの2階建て車両と異なり、ドーム状の構造になっておりました。アメリカの大陸横断列車のドームカーに似ていました。どうも、アメリカの車両をモデルに作ったようで、電車の正面もアメリカンタイプのごついものでした。しかし、密閉式冷暖房、フルクロスシート、最高速度135km/hと今までにないハイレベルな電車でした。

 いよいよ、ビスタカーに乗るため、近鉄名古屋12:00発「かつらぎ4号」に乗りました。

 

ビスターカー運転記念特急券(表)

 

ビスターカー運転記念特急券(裏)

 

 特急ビスターカー記念特別急行券です。指定号車、座席が裏面にハンコで押されているのが、時代を感じさせます。近代的電車を走らせても、コンピュータによる座席予約システムなど、まだ無かったのでしょう。

 

名古屋線「かつらぎ4号」モハ6428 伊勢中川 昭33-7-11

 

 この当時、近鉄名古屋線は改軌の前で、軌間1067mmですので、伊勢中川まで、名古屋線特急車モハ6400形に乗りました。伊勢中川

13:04着、隣の大阪線ホームでビスタカー10000系、上本町行が待っていました。

 

大阪線上本町行「かつらぎ4号」ビスタカー10000系 伊勢中川 昭33-7-11

 

 3分接続で、13:07発車です。車内は初日の割には空いていました。早速、ドームカー2階に乗車しました。

 

ドームカー(2階客室)    昭33-7-11              ドームカーからの眺望(桜井付近)   昭33-7-11

 

ドームカーの2階を見上げる  昭33-7-11

 

2階から1階を見下ろす  昭33-7-11

 

7号車(10007)車内  昭33-7-11                    1号車(10001)運転台 昭33-7-11

 

放送室とビスタガール 昭33-7-11                 電話室       昭33-7-11

 

 ドームカーは展望がよく、彼の地のドームカーの雰囲気が想像できましたが、天井が低く、座席のせずりも低く、一寸、狭苦しく感じました。その他の車は転換クロスで、ぜずりも高く、ラジオが聞けるイヤホーンがありました。近鉄がはじめて実現した車内電話もあり、ビスタガールも乗っていました。この当時としては最高のアコモを誇っておりました。

 

大阪上本町駅8番線に到着のビスタカー10000系 昭33-7-11

 

ビスタドームカーの外観   昭33-7-11

 

 14:35大阪上本町駅8番線に到着しました。

 10000系初代ビスタカーはこの1編成のみで終わり、2代目10100系ビスタカーが名古屋線改軌後の名阪特急に就役、近鉄ビスタカーの名声を高めることになりました。

 

  上本町駅は巨大で8番線までありました。東京の私鉄では考えられない大きさです。となりの7番線には2200系6両編成の「宇治急」が発車を待っていました。

 


 

 これから、関西の電車に思い切り、乗り、かつ、撮るぞと若い鉄道ファン達は意気込み、京阪神を走り廻りました。ホーム撮りが多かったようにも思いますが、大いに収穫があったように思いました。

 その中のごくわずかですが、ご覧頂こうと思います。

       

大阪地下鉄・阪神電車・市電

 

 

 梅田はその当時から、地下街が発達していました。その主役は地下鉄でした。

 

大阪地下鉄梅田駅     昭33-7-11

 

 大きなドーム天井のあるホームは迫力があり、圧倒されました。銀座線などの地下鉄を見慣れていたものにはスケールが違いました。

 

特急神戸三宮行き、3000形、3041 阪神梅田駅  昭33-7-11    急行神戸三宮行き800形、815 阪神梅田駅 昭33-7-11

 

 梅田地下街のもう一つの主役は阪神電車でした。当時、クロスシートカルダンドライブ3000系による阪神間25分運転の特急が目玉でしたが、急行以下の列車は小型の800系などで運転されていました。小型ですが全鋼製で、結構飛ばしていました。

 

大阪市電 2600形、2659 なんば  昭33-7-12            大阪市電 800形、876 なんば  昭33-7-12

 

 大阪市電は都電に比べ、やや大きい感じでした。2600形は更新車ですが、これと同じスタイルの3000形、大阪版PCCと言われていた最新電車もありました。

 

大阪の国電

 

関西型国電 クハ68  大阪駅    昭33-7-12            ブドウ色一色のスカ形クハ76   大阪駅  昭33-7-12

 

阪和電鉄引継ぎ車 モハ20 鳳     昭33-7-12         阪和電鉄引継ぎ車 クハ25  東羽衣 昭33-7-12

 

 東海道本線の京都ー大阪ー神戸の急行電車には湘南型80系が使われていました。色も湘南色でした。普通電車には戦前からの関西型電車も多く残っていましたが、スカ型70系がブドウ色1色に塗られ、走っていましたが、なにか、不気味でした。阪和線には阪和電鉄から引き継いだ電車が使われていました。全鋼製で、出力も大きく、社形で唯一、国電17m通勤型のナンバーを貰った電車でした。

 

阪急電車

 

 やはり、関西の電車の白眉は阪急電車でした。

 

阪急神戸線 800形、812 特急梅田行 西宮北口 (今津線を平面クロス) 昭33-7-12 

 

阪急神戸線 1000形、1010  西宮北口 (今津線を平面クロス) 昭33-7-12 

 

 神戸線三宮行特急は大きなドーム屋根の下に8号線まである堂々たる梅田駅を発車し、複々線区間を走り、十三で、宝塚線、京都線と分かれるとスピードを上げ、疾走して、アッという間に西宮北口に到着しました。ここでは、今津線(今津ー西宮北口ー宝塚)と平面クロスしております。マルーン一色の車体で、内装は全鋼製にも拘らず、木目の焼付け塗装の車内にモスグリーンの座席というシックな車内で、品のある雰囲気をかもし出していました。神戸線では800形、900形のつり掛け車が主力で、初めてのカルダンドライブ車1000形が

登場していました。

 

阪急今津線 500形 501 西宮北口 (神戸線を平面クロス) 昭33-7-12 

 

 

阪急今津線 500形 515  西宮北口ー門戸厄神  昭33-7-12

 

 クロスしている今津線では小型車、モハ500+サハ300+モハ500の編成で運転されておりました。

西宮北口駅構内の神戸線、今津線の平面クロスはその当時でも珍しいものでした。神戸線には上り、下り線とも待避線もありましたので、今津線の電車は合計8本の線路とクロスせねばならず、大変でした。

 

神戸市電

 

神戸市電 750形 757    昭33-7-12                  その転換クロスが並んだ車内  昭33-7-12

 

 神戸市電はダークグリーンとかば色?のツートンカラーの洗練された感じでした。特に、その1部に転換クロスを装備した電車があるのには驚きました。当時としては国内で唯一のものであったと思います。

 

京都市電

 

 

N電 N22     北野終点   昭33-7-13

 

  N電 N2と 900形 928 四条西洞院付近    昭33-7-13

 

古参500形 519 四条西洞院付近  昭33-7-13          当時の新鋭700形 709  四条西洞院付近  昭33-7-13

 京都では京都電気鉄道の名残の1067mm狭軌路線のN電が京都駅前ー北野間で走っておりました。電車は明治の面影を残す木造単車でした。一部に3線区間があり、1435mmの京都市電と一緒に走っていました。京都市電は古都によく似合う落ち着きのあるスタイルでした。


 関西の電車は高速で疾走する阪急、阪神、京阪、近鉄などの特急とともに古い面影を残す電車も多くいました。これらに魅せられて、これ以降、何回も足を運びました。撮影した写真も多くあります。ページを改めて、じっくりご覧頂くことがあるかも知れません。

 ここでは、日本の遠距離高速電車のさきがけである近鉄の初代ビスタカーの営業開始の頃の関西の鉄道の様子をチラッとご覧頂きました。

(2005-6-25)


 


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